The King with Donkey Ears

ドラマ視聴素人の感想置き場。自分のために書いてます。

黒澤明監督作『生きる』見た

面白かったね〜。



日本人たるもの、やはり死ぬまでに
一作ぐらいは黒澤明監督作品の映画を見ておかなければ、真の日本人とは言えないのでは?

ということで、わざわざ借りて
視聴しましたよ、『生きる』。




なぜこの作品を借りたかというと、
黒澤明監督作品ではビギナーに優しい作品だとインターネッツ上で見かけたから。


七人の侍』は、やっぱり長い。
見るぞ!という気持ちにならないと、
なかなか一歩を踏み出せないものなのです。
ハードルが高いんですね、
私のような映像作品に熱心でもない俄者には。

だから『生きる』です。

羅生門』は88分ですから、
本来はこれが一番ビギナーに優しそうではありますが(現代文の教科書でも習うしね)
残念ながら借りられていたので…。



白黒映画&140分強の映画ということで、
これはなかなかの苦行なのでは…?
と見る前は懸念していたのですが、
とんでもない。


葬式シーンはやや冗長だと感じましたけど、
それ以外は白黒や古臭さが気になることもなく、
集中して見ることができました。


あらかじめ、大まかなあらすじを
頭に入れて見たのが良かったのかもしれません。



まず、脚本が巧みですよね。

始まり方からして、50年代の映画にしては
かなり凝った奇抜な始まり方というか。

他に50年代の映画を見たことがないので、
もしかしたらあの始まり方は珍しくもないベーシックだったのかもしれませんが、
主人公のレントゲン写真から始まって、
退屈な人生を皮肉たっぷりに
ナレーションで語ったり、
近所の女性たちが公園を作って欲しいと頼みに来るも、市役所内をたらい回しにされるくだりも
テンポよくてコミカルだったし、
なんか、思ったより明るい雰囲気で始まりました。


そして、病院に行って
待っている主人公・渡辺課長に絡む男性の言葉から、自分が胃がんであることを悟る流れも本当に自然。

当時は本人に余命の告知をしないのが
当たり前なんだなあとか、そういう事前の知識を入れていたので、余計に違和感なく
ストーリーに入り込めました。


そして、何より志村喬さんの演技が
とても秀逸だったと思います。



渡辺課長は、20年前に妻を亡くしてからは、
息子のために、と
波風立てずずっと市役所で働いてきた人。

そんな人がいきなり自分がもうすぐ死ぬと悟るって、どんな絶望なんだろうな。

あの…その…つまり…と、
自分が思っていることも
なかなかはっきり言えず、
ずっと退屈な人生を送ってきたから、
何をしたらいいのかわからない。

怠惰な小説家に連れられて
初めての放蕩に浸るも、虚しさだけが残る。

同じ市役所で働いていた若い女性・とよの溌剌とした姿に惹き付けられて心休まるも、
次第に不気味がられたり…。

そして、自分ができることに気づき、
これまでの穏便に波風を立てないように生きてきたのが嘘のようにあちこちに奔走する…。

そして、念願であった公園が完成し、
ブランコで嬉しそうに『ゴンドラの唄』を歌いながら亡くなる。


この一連の流れが、とても良かった。
志村喬さんの演技を、ずっと食い入るように見ていました。


空虚でただ日々を過ごしていたときの表情、
放蕩するも虚しさを感じ『ゴンドラの唄』を涙をこぼしながら歌う姿、
溌剌とした女性・とよと会話をして接するうちに
ふっと力が抜けた笑顔、
真に『生きる』方法と目的を見つけたときの光り輝く瞳、
雪が降る中ブランコに乗りながら、
達成感をしみじみと感じながら『ゴンドラの唄』を歌う姿、
全てが良かったです。

中盤までは、渡辺課長があまりに可哀想で、
あまりに志村喬さんが鬼気迫る演技なもんだから、
本作を見ながら、胸の奥が少しヒリヒリとしていたのですが
それだけに、とよと接しているときの
渡辺課長の笑顔に、見ているこちらも
ホッとしたというか、
この時間がずっと続けばいいのにね、
と感じました。

一人息子と嫁に邪険にされ、
胃がんと余命のことを言おうとしても相手にされず、むしろ砲塔生活のことを非難され
独りぼっちになった渡辺課長の姿を見ただけに余計にそう思いました。


でも、現実はそんなに甘美なものではなくて、
次第にとよにも異様に思われるようになるのがとてもリアルだったな。

ずっとこのまま『ヒロイン』であり続けると思ったのですが、そうではなかった。

それでも見捨てられず、喫茶店に付き合ってあげるのが優しい。

そして「課長さんも何か作ってみたら?」と投げかけたことがきっかけで、
渡辺課長は自分がやるべきことに気づくという。

このシーンでの、ハッピーバースデーの演出は、素晴らしかったですね!!
うおおお!と鳥肌が立ちました。
渡辺課長の真の人生がスタートしたんだ!と心沸き立った。



やる気になれば…!と主人公が動き出し、
ワクワクしてたら、いきなり葬式!には、
かなり度肝抜かれましたね〜。



葬式シーンは、長かったり、
なんかイライラしたなぁ。
公園を作ったのは渡辺課長の尽力があってこそなのに、
手柄は助役や市長のものになったこと、
そのことを渡辺課長は哀しんでいるとか、
そのことで絶望して、自分が作った公園で抗議したくて死んだとか、
なんかそんな類のことを延々とべらべらと喋ってさ。

違う!違うよ!
渡辺課長はそんな次元に生きていないんだよ!
と言ってやりたかったね。


それだけに、近所の女性たちが、
助役たちには目もくれず
涙いっぱいためながら焼香に訪れたシーンや、
警官が公園で渡辺課長が落とした帽子を届けに来たシーンは、ウルッとしてしまった。

好き勝手なことを言っていた
市役所メンバーたちも、
課長が自分が死ぬことをわかってて
やりたいことをやったんだ!
俺たちも遺志を継ぐ!と盛り上がるんですけど、

翌日、これまでと同じようにただ時間が経つのを待つような流れ仕事に戻る、ってのも、
皮肉がきいてて現実的で良かった。
人間、そんな簡単に変わることはできないんだな。と痛感させられた。


それでも、渡辺課長が作った公園では、
多くの子供たちが楽しそうに遊んでいて、
そこに幸せが生まれている。
そこに渡辺課長が生きた証がある。


公園作りに奔走していた渡辺課長が、
ふと空を見上げて、綺麗な夕焼けに見とれて
「…いかん、こんな時間はない」とはっとするシーンも名シーンでしたね。

退屈な人生を過ごして、『ミイラ』と
とよから揶揄されたときには、
気づくこともなかった綺麗な夕焼け。

これ、白黒だから綺麗な空だな…
としか思わなかったけど、カラーなら、
さぞ綺麗な夕焼けだったんだろうな、
と、ここだけ残念かな。


いや〜、面白かったね。本当に面白かった。

ワタクシ、草彅剛くん主演のドラマ
僕の生きる道』が大好きなんですけど、
今回『生きる』を見て、確かに
僕の生きる道は本作のオマージュというか、
『生きる』を少しおとぎ話とか
天国のようにアレンジして
美しい世界観にしたのが
僕の生きる道』だな、と感じました。
僕の生きる道』もまた見直したいですね。



いや〜それにしても良い作品だったな。

今は、ひたすら志村喬さんが
ニコニコ楽しそうに笑う作品が見たい。
何がいいのかな、ゴジラ
同じ黒澤明作品の方がいいのかな?