The King with Donkey Ears

ドラマ視聴素人の感想置き場。自分のために書いてます。

【ネタバレ】「おしん」名場面ランキング

田中裕子さんがおしんを演じた
第37回~第225回までで、個人的にすごいと思った名場面ランキングです。

誰かが死ぬ場面を名場面というのは
何とも複雑な気持ちになるのですが、
死と言う名の別れがとても多いので
どうしても選ばざるを得なくなります。



1位:217~219回(竜三の死)

私個人としては、この一連の流れが
おしん」のなかでも一番の名シーンです。

概要としては、終戦の奉勅を聞いた夜、
おしんと竜三がこれまでの夫婦生活を振り返って、
竜三がおしんに礼を言って、
翌日誰も知らない山のなかで、
戦争に協力した罪を償うために自決する、
っていうストーリーなんですが。

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いやあ、泣きましたね。「おしん」はですね、
いろんな意味で涙止まらない展開てんこ盛りなんですけど、そのなかでもこの展開は泣きましたよ。大泣き。

竜三というのは、いい意味でも悪い意味でも
おしんの人生を大きく変えたキーパーソンで、
ある意味、凖主役と言っても差し支えない人。
(加代さま、浩太さんも凖主役かな)

というのも、少なくとも
田中裕子さんが演じられた青年~壮年期おしんは、
女・妻・母親としての話だと思うからです。
この3つ全てに深く関わってるのが竜三なんですよね。

つまり、夫婦の話なんです。
壽賀子もそれを意識してかは分からないけど、
とにかく二人の出会いから別れまで、
細かいぐらい隅から隅まで書いていたと思います。

だから、竜三の情けなさに憤慨するし
竜三の優しさに心打たれるし、
おしんと竜三夫婦に感情移入して見てしまうのです。

第217回での夫婦の最後の夜のシーンはその集大成で、
これまでの二人の苦楽を考えたら、
見ていてものすごくしみじみしてしまいました。

「私の人生で一番素晴らしかったことは、
お前とめぐり逢えたことだ。(中略)
お前のおかげで、私は男としての仕事を存分にできた。子どもにも恵まれた。お前から、数えきれない幸せをもらった。ありがとうおしん。」

と伝えるときの竜三の清々しい表情とか、
それを聞いてるときのおしんの表情。


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これにグッと来ない人っているんでしょうか?
東京で、初めて出会ったときから
何十年を経ても全く変わらない竜三の笑顔が、
ものすごく胸に刺さるんです。

そして竜三の感謝の言葉に対してのおしん
「これからだって、あんたがそばにいたら何だって乗り越えられる」みたいな言葉に返答しない竜三が辛かったし、
初見だって「あっ」と悟っちゃうんですよね。

「こいつ、死ぬ気だ」と、分かっちゃうんです。
竜三さん、死相出しまくりの表情をしているんです。でもニブいおしんは気づかない。
ここが悲しかった。

戦争に協力した責任をとって自決。
初見では、「なんでそんなバカなことしたんだよ!戦争なんだからしょうがないじゃんか!」と思いました。

でも、竜三ってそういう奴だったよなとも思えて。

決して人のせいにせず、何かを恨むこともしない。
要領のいい器用な生き方が
決してできない人だった。

その後、清が竜三から送られてきた遺書をもって
伊勢に初めて訪れるんですが、
このシーンがまた泣けた。

竜三の遺影に向かって
逃げ出すなんていくじなしだ、おしんや家族を養うのがお前の責任だろう、
という清の言葉ももっともなんだけど
それに対して反論するおしんが、
あまりにも、竜三の妻として、
凛として気高くて堂々としてて。

「お義母さん、私は竜三は立派だと思っています。戦争が終わったら、戦争中は自分も黙っていたくせに、
自分一人は戦争に反対してきたみたいに、
バカな戦争だったとか間違った戦争だったとかえらそうなこと言って…。私もそうでした。
暮らしが豊かになるためだったらって、竜三の仕事に目をつぶってきました。戦争のおかげて自分だってぬくぬくと暮らしてきたくせに、今になって戦争を憎んでいるんです。雄や仁を奪った戦争を恨んでいるんです。
そんな人間に比べたら、竜三はどんなに立派か。
自分の信念を通して生きて、それが崩れたら節を曲げないで、自分の生き方にけじめをつけました。
私はそんな竜三が好きです。大好きです。」

それを涙を流しながら聞いてる清。

こんな泣けるシーンってありますか?
私は号泣通り越して嗚咽でした。
目が痛くなるぐらいでした。

かつてあんなに反対されて、
清からは冷たく当たられて、嫁として認めてもらってなくて、そんな関係だったのに、
おしんが誰よりも竜三のことを理解していて、

そんなおしんに清が、
竜三は良か人ば女房にもらった
っていうのとか、もう、
佐賀編での地獄から見ていたこっちにとっては、
涙しかない展開ですよ。

この後、清がおしんに禎とともに佐賀に来ないか、と誘うんですけど、希望と初子ガン無視なのが、
また清らしい、変わってないな!と少し笑いました。
(多分手紙ではあんまり触れてなかったんだろうから、存在自体知らなかったと希望的観測をしておきたい)

28歳で45歳の演技を違和感なくこなし、
竜三が自決したと知った後の憔悴した姿や
竜三は立派だった、私は竜三と夫婦でいられて誇りに思う、といったときの芯の強い瞳、
田中裕子さんの演技は圧巻というしかないです。

ただ、25歳で52歳の演技、そしてすべてを決意した後のあの夜のシーンでの佇まい、
家族との別れのシーンで気丈さを見せるところとか、
並樹史朗さんの演技も、
もっと評価されるべきだと思います。

25歳で52歳の演技って。すごいよね。

2位:186~188回(加賀屋滅亡と加代の死)

加賀屋滅亡と加代さまの死は、
おしん四大鬼畜展開』のひとつです。

壽賀子、お前ひどい奴だな…。

と怒りさえ覚えました。


いくらなんでも、あそこまでしなくて良くね?!
お前、金持ちになんか恨みでもあるのか??
あまりにも加代への仕打ちが鬼畜すぎん!?


もう、橋田壽賀子氏への怒りの言葉は、
書き連ねたらなんぼでも出てきますよ。
それぐらいひどい。

加代がいるという場所の住所を見て、
竜三や髪結いの師匠・たかの表情が一変したところからもう胸がざわざわしたし、

加代がいるという建物の二階から
希望の泣き声がしたところとか、
脚本や演出がいちいち無駄がなくて、どんどん引き込まれていくんですよね。見たくない展開なのは分かりきっているのに。
186回で最高視聴率取ったのも納得です。

そしておしんが加代と再会したときの加代の姿は、「あぁ、だから加代役は東てる美さんやったんや…」と納得しました。

壽賀子ひどくない!?
もう加代の末路は最初から
ああだと決めていたのかね。

なんか、ひどくない!?鬼だよあんた!

加代の口から、政男が自殺した後の色々を
説明されるのを聞いてて、とにかく悲しさとやりきれなさが押し寄せてきて、涙止まらなかった。

浩太は「運命だよ、運命としか言いようがない」とかふざけたこと言ってたけど、こんな運命なんて辛すぎる。というか元はお前とおしんのせいだろうが浩太

加代さまほど優しくて純粋な人はいなかったのに、
何でこんな運命にならなきゃいけないのか。


おしんが会いに来た翌日に亡くなって、
おしんが必死にみのと清太郎の骨壺を守るところとかも、ものすごく悲しくて泣けたんだけど、
やっぱり加代が死ぬ前に書いたおしんへの最期の手紙は、目が痛くなるぐらい悲しかった。

おしん、今、おしんとよく遊んだ
酒田での幼い頃のこと思い出してる。
私には一番幸せな頃だった。
あの頃に帰れたら…。さようなら、おしん……

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その手紙読んだ後のおしんの決意の表情が、
凛としてて、あまりにも美しくて、
田中裕子すげぇ、という何千回も抱いたシンプルな感想を、またこのときも感じました。

このあと、身体を震わせて泣いてる?健さん
お師匠さんに向かっておしん


元気で…いてくださいね。


って言うのがものすごく沁みたなぁ。

3位:82回(源じい)

佐賀から竜三の父・大五郎が来た際、
おしんに厳しかった源じいが、
実はおしんのことを佐賀への手紙で
いたくほめていたと発覚する回。

おしんが俊作あんちゃんに算数や文字の読み書きを習ったり、大奥様におなごとしての作法を学んだこと全てが、この回のカタルシスに集約されています。

源じいは厳しくても、どこかかわいらしさと人の良さがにじみ出ているキャラなので、
どこかでおしんを認める展開があるとは思いましたが、
素晴らしい流れだったのではないでしょうか。

この話を書いていた頃は、橋田壽賀子氏は
源じいが大人気キャラになるとは思わなかったのかもな。関東大震災での切り捨てっぷりは、何の躊躇も感じなかったし。

大五郎の髪の毛のあまりのつやつやさに噴きました。

4位:179~183回(母ふじとの別れ)

とにかく173回あたりから188回まで
ノンストップでたたみかけてきて、
感想が追い付かない状態です。

ふじの死に関しては、竜三の純粋な優しさと、
庄治の不器用すぎる優しさが印象に残ったなあ。

庄治夫婦からふじを預かってくれという手紙を貰って、
何を口実にふじを引き留めたらいいか考えてたなかに
おしんの懐妊発覚。
おしんのためにしばらく伊勢にいてくれ!と頭を下げる竜三の機転の良さに驚きつつも、


「お前良い奴だな竜三ーっ!」
おしんに子供ができると毎回覚醒してんな竜三!」

ジーンとしましたし、

母を山形に連れて帰りたい、というおしんの願いを快く引き受ける竜三にも、

「お前良い奴だな竜三ーっ!」
「佐賀でのマイナス分をプラスにする勢いだなオイ!」
「大人になったなお前ーっ!」

とほめてやりたくなる始末。
(設定的には34歳ぐらいでおしんより年上なはずなのだが、ものすごく年下感があるよね)
彼の優しさはものすごく純粋でストレートで、
人柄をよく表しているなあと思います。


それに対して庄治は、優しさがとにかく不器用。
ふじを山形の実家に連れ帰ったおしんにも、
嫁のとらの手前、柔らかく接することはできないのです。

でも、旧家の片付けが済んだ後
おしんがふじを運ぼうとしたとき、
黙ってふじを旧家に運んだ姿や、
おしんに「母ちゃんどっか悪いのか?」と心配する姿は、間違いなく母親を愛している息子でした。

思えば、おしんが雄を連れて出戻りしてきたときにも、
おしんが酒田に行ってふじが独りきりになったときも、
不器用ながら優しさは見せていたんですよね。
庄治は長男だから家に縛られて、貧乏に縛られて、
性格はひねくれてしまったけど、
優しさがなくなってしまった訳じゃなかった。

貧乏というのは、人の気持ちも歪めてしまう。
苦しくはなかったら、もう少し優しくなれた。

竜三が庄治のことを思いやって言ってたけど、
本当にその通りだなあと思いました。

5位:84回(作造の死)

この回はね、個人的には、竜三の死と加代からの最期の手紙の件の次に泣けてしょうがなかったんです。
それぐらい完璧な回でした。

初めて東京に来たとき、
あんなに憎たらしかった作造が、
危篤を知らされて山形の実家に飛んで帰ったおしん
見たときは弱々しく布団に横たわってて、
おしんでなくても、何か胸の奥で
洗い流されるような、
何とも複雑な気持ちになってしまいました。

おしんへの感謝と、これまでのことを詫びる作造の姿はまぎれもなく父親で、
おしんが「おれ結婚したんだ!」と伝えた直後の
作造の瞳がパッと輝いたシーンは、見ていて鳥肌もの。
ああいうのは計算してやっているのか、それとも偶然の産物なのかはわからないけど、
泣きながら「すごいなぁ」と感心しました。

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祝い酒を泣きながら飲むおしんの表情にもまた泣いてしまったのですが、
そんなおしんを「何だ、めでてえのに泣くやつがあるか!」と父親の慈愛の表情で見つめる作造も、
また良かった。かつて、独りで納屋で寝ているおしんにそっと布団を首元までかけてあげたときの作造と、
何らかわりない娘への愛情を感じました。

作造が亡くなったあと、
父ちゃんのような生き方はしたくないという庄治に
ふじが怒ったのも良かったと思います。

傍目から見れば辛いだけだったふじもまた、
作造への愛情はあったのだと感じたし、
夫婦というものの複雑さがとてもわかりました。

その後、小作争議にきていた浩太と偶然会い、
結婚したことを告げ、浩太への思いと決別するところも
どこか清々しい終わりかたでした。
ソフトでは、青春編はこの回で終わりなんですが、
青春の終わりをしみじみと感じる
締めだったと思います。

6位:174~176回(再び、夫婦で)

家族3人でまた暮らしたいという気持ちは同じなのに、そのベクトルが微妙にすれ違っていたおしんと竜三。

おしんは「今」を竜三と雄と過ごす「時間」を求めていて、
竜三はおしんや雄のために「モノ」を残してやりたい、という考えだったんですよね。

どちらも雄のことを考えての行動だから、
お互いを責めることはしない。
だからいつまでたっても合流できなかった。
竜三はおしんと雄に会いに来ないわけじゃなくて、
会いに来れなかったんですよね。
自分が情けなくて。

だから、せめて形として残る土地を手に入れて、
胸を張って二人に会いたかった、
そういう気持ちの問題もあったのです。

難儀な男ですね、本当に。

そんな二人は、双方が頑固なので、
いつまでたっても平行線だったんですけど、
九州に台風が直撃し、佐賀の干拓が被害にあったことからストーリーは大きく展開する、という。

竜三が、自分が打ち込んできた干拓
台風によってすべて無に帰したことにショックを受けて声をあげて泣いたシーンは、
ごめんなさい、少し笑ってしまいました。
決して笑うシーンではないと思います。

関東大震災が来るとも知らず、
縫製工場を立てるために奔走したときといい、
そして今回といい、この男は本当に要領が悪くて、
裏目に出ることばかりだなあ、と
その世渡りの下手さが、逆に面白かったし、
いとおしく感じたのです。

そのあと、やけに早く立ち直って、
佐賀を出て伊勢にいるおしんと雄に会いに行ったのは、竜三には珍しく迅速な行動でしたが、

おしんに見つかって何故か走って逃げるのを見たときは

「おい!おいお前!何で逃げるんや!」

おしんと同じことを思いましたし、
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おしんタックルによって捕まった竜三が
満州に行く!と言い出したときは

「おい!なんでよりにもよってそんな最悪の選択を…バカ!」

と、頭を抱えました。
もう脚本家の思うツボでしょうか。

でも、その後竜三が
魚を競ってるおしんを実際に見たり、
おしん往復3里(1里=3.9㎞なので、11.7㎞)の道を毎日、雄を乗せた箱車を押して歩いていることを知り、
おしんの苦労を目の当たりにして改心する場面はものすごく好きです。表情が良いんだよね表情が。

特に、おしんと雄が伊勢の人々に可愛がられてるところを見て竜三が影で思わず涙するところは、
見ているこちらもジーンとしましたし、


満州へはいかん!おしん一人に苦労はさせられん。手伝うよ。」

おしんに告げるシーンや、
その後の親子三人の電車ごっこシーンは、
もうこれで最終回でよくないか?
とさえ思う清々しさ。

そして、竜三と合流した後の
おしんのあまりのテンションの高さには、思わずクスリとしてしまいました。

このあと竜三はしばらく聖人レベルの旦那に落ち着いてくれるのですが、
そのほとんどが橋田壽賀子氏によってすっ飛ばされるのは、少し気の毒でした。

それにしても、174回~176回は、
色々と面白いシーンが多かったです。

伊勢には行かない、という竜三からの手紙を読んで
噴火を必死に抑えているようなおしんの表情もおかしかったし、
ひさから「あんたも因果な旦那持ったもんやな」と言われ、

「本当に、一度思い込んだら頑固な人なんです。」

おしんが言ったときは、
ひさだけでなく、見ている全視聴者が
(お前もな…)
(おしん、人のこと言えた義理か?)

と突っ込んだことでしょうね。

また、175回で竜三がおしん
「本当に大きくなったな、雄」と言う場面があるのですが、

いや、どうみても全然大きくなってない。
佐賀編最後から雄は全然変わってないで、竜三。

と、見ているこちらがツッコミを入れました。
雄を見ているぶんには3年の月日全然感じないです。
竜三、お前には何が見えているんだ、
と思いましたが、脚本ではそういう設定なので、仕方がないのです。

そこらへん、面白かったですね。

7位:114回、115回(関東大震災と源じいの死)

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この展開は、個人的におしん四大鬼畜展開』のひとつだと思っていて、
あまりの情け容赦ない展開に、見ているこちらもどん底に突き落とされたような気持ちにさせられました。

それまで徹底的におしんと源じいの仲睦まじいところや、おしんと竜三の夫婦のほほえましいやり取りをたっぷりと尺をとって描写して、
幸せをさんざん積み重ねておいての震災ですから、

本当に、恐ろしい脚本家だな、この野郎。この鬼が!

と称賛の意味での罵倒をしたくなります。

113回後半と114回前半で、源じいの幸せそうな顔を多く映していたのも、震災前と震災後のギャップを狙ってのことだと思いますが、
せめて視聴者に心の準備をさせてあげようとする、
橋田壽賀子氏からの情けだったのかもしれません。

それぐらい、死亡フラグがビンビンでした。

おしんと竜三が源じいの遺体を見つけるシーンの辛さと言ったら、雄の泣き声があまりにも効果的で、
どん底、地獄を表現しているようでしたし、

絶望で放心状態になっているおしんの表情をバックに、

自分達が突き落とされた奈落の深さを知るのはもっと後のことだったのである。


とナレーションが入ったとき、
これがどん底ではないのか、と今後の展開に恐怖すら感じました。

115回の最期の竜三の脱け殻のような表情にも
絶望感がありました。というか怖かったよ。

いやはや、この展開を早く書きたくて書きたくて
うずうずしながらコツコツ幸せ描写を積み重ねていたかと思うと、
ますます脚本家様の容赦のなさに畏怖の念を覚えます。

これは見ているこっちの勝手な想像でしかありませんが、
おそらく、橋田壽賀子氏は、佐賀編や太平洋戦争編で
最もノリノリでいらしたんだろうな。
見ていて感じますもん。
まず、エネルギーが違う。台詞に込められたエネルギー量が違う。
演じる側は、さぞ疲労したんだろうな。

8位:94~96回(夫婦の再生)

この3つの回の流れは、本当に良くできてるなぁ
と、まず脚本に感心しました。

竜三のために、と再開した髪結いで稼ぐことが
実は竜三のプライドを深く傷つけていて
じゃあどうすればこの夫婦の危機を乗り越えられる?って問題の解決策が思いもよらない荒療治だった、っていう。

逆転の発想とでもいうのかな。
一般的に見て正しい行為でも、
人によっては正しいとは限らないというか。
深いなあ、夫婦って、と考えさせられました。

竜三がどんどんダメな夫になっていくのも
リアルだったし、おしんが竜三をどんどんダメにしていってるのに気づかないのも、またリアルだなあと。

染子の竜三への一喝シーンもすごく良かった。
染子の一番の見せ場ですよね。

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思えば、おしんと竜三を結びつけたのは染子です。

染子が、おしんの人生を大きく動かしたと言っても
過言ではありません。
面倒見の良い染子は、竜三のよくない噂も聞いていただろうし、おしんのことを可愛がっていたので、
竜三が店に現れたら、そりゃあしびれを切らしてああいう風に叱るよなあ、と納得しましたし、
怒りながらもどこか優しさも感じる染子の一喝、
あれは竜三の心に深く突き刺さりますよね。
染子役の日向明子さんの演技がとても光っていました。

これだけのキーパーソンなのに、
関東大震災後の消息不明ってのは、少しひどくねえか、と思ってしまったりなんかして。

そのあと竜三がおしん
不満をぶちまけるシーンもすごかった。
どんどん表情がこわばっていくおしんも、
なんとか仲裁しようとする源じいも、
これまでたまりにたまっていたことをぶちまけてるんだろうな、という竜三も。

そのあと、寝てる竜三を見つめるおしん
「どこの火曜サスペンスだよ」というぐらい、
映像が、撮り方が、今にも竜三を刺しそうで
見ているこちらとしてはとてもハラハラしましたが、
別にそんなことはなかったので、安堵しました。

その後、髪結いの師匠・たかから
髪結いの亭主の因縁の話を聞き、自分が間違っていたんだとおしんが気づくところも良かった。

別に回想シーンを挟んだわけでもないのに、
たかが、かつての配偶者で苦い思いをしたことが、
表情と声のトーンだけでわかるんですよ。
BGMだって全然かかってない。

無駄を徹底的に削ぎ落としたからこそ
逆にその演技のすさまじさが映えて、
見ているこちらにも響きました。

渡辺美佐子さんのあの切符のよい江戸弁、というのかな、そんな台詞回しがものすごく良かったと思います。
どこか弱さと後悔もにじませていて、
たかというキャラクターの奥深さを感じましたよね。

覚悟を決めたおしんが、「夫を頼る妻」として
とにかくお金の為になにもしないという選択を
取ったのもなるほど!と唸ったし、

食べるものにも困る状態まで
追い詰められたのを知った竜三が、
かつての小作の息子に頭を下げて
金を作ってきた展開にも、また「なるほどなぁ」
と拍手を送りたくなる気分になりました。

根本的な解決には全くなってない、
ただのその場しのぎではあるんだけど、
おしんにとっては竜三の
おしんやお腹の子や源じいのためならなんでもする」
という気持ちの変化が嬉しかったんですよね。
その気持ちさえあればついていける、となったその流れ、すごく好きな展開だったなぁ。

9位:140~146回(佐賀編末期)

佐賀編は全体的に熱量がものすごくて、
見ていてものすごく疲れるんですけど、
そのなかでも、この7つの回は、
とにかく役者さんの演技も演出も音楽も、
全てがものすごい熱量だったなと思います。

140回はいわゆる『うどん回』と言われる回で、
うどん食べろ食べないみたいな言い合いなんですけど、
それでもとにかく凄かった!
おしんと清の頑固さと溝を決定的にした象徴のシーンだと思うのですが、
ドラゴンボールの悟空VSフリーザのような、
最終決戦のような緊張感がありました。
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もう、とにかくおしん役の田中裕子さんと
お清役の高森和子さんの演技の凄まじさに尽きます。
私の貧弱な語彙力をもってしては表現しきれないほどの出色の出来。
おしんと清の半径2m内にいたら、はじき飛ばされそうなぐらいのピリピリ感に、
もはや恐怖とか辛いとかそういうの通り越して、
「すげえ…」と呟いてしまいました。
いやはや、すごいんです。本当にすごいシーンでした。

141回は、おしんと篤子の出産の回です。
あんだけ篤子を甘やかせて肥えさせたお清が、
篤子の難産に動揺し、
「もしなんかあったらおしんのせいたい!」と言い出したときは、思わず失笑してしまいましたが、
清もまた一人の母親なんだということを、
まざまざと感じさせられました。

おしんのために、篤子の医者を呼びにいく竜三は
何一つ間違った行動をとっていません。
もし呼びにいかなかったら、
おしんは死んでいたでしょう。

それでも、竜三さん!竜三さん!と助けを呼ぶおしんの姿は見ていて辛かったし、
竜三が泥水の上に倒れてるおしんを見つけたときは
「なんで!なんでついててやらなかったぁ!」
肩をぐらぐらと揺さぶってやりたくなりましたね。

冷静に考えれば、竜三がついていたところで
何の役にもたたないし、医者を呼びにいったことで
おしんの命が助かったんだけど。

おしんの口から泥水がだらーっと流れるところは
見ていてとにかく衝撃。
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えぇ…。
うわぁ…。

声にならない声が、
見ている自分の口から漏れていました。
田中裕子さんの女優魂、すごい。

142回と143回も、
変わらず田中裕子さんの女優魂全開。

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それに加えて、竜三役の並樹史朗さんも良かった。
並樹さんは、受けの演技が抜群だと思っていて、
間の取り方がすごいなあ、と
一歩引いた目線で見ると思うのです。

愛の死産をおしんに伝えられない辛さ、
自分の情けなさに押し潰されそうになりながらも
必死に正気を保とうとしてて、
竜三も気の毒になりましたよ。

おしんの気が触れた後もかいがいしくおしんの世話をして、竜三はそれがせめてもの罪滅ぼしだと思っていたのだろうけど、見ていてこっちが辛かった。

清が篤子の子におしんの乳をやってくれ、
と頼むシーンは、そのあまりの虫の良さに
「お前に人の心あるとかーーっ!」と思いました。

すげえな清。あんたすげえよ。
おしんに乳もらったあとの手のひらの返しっぷりも
もはや清々しいよ。
でも篤子も自分の娘の名に、
亡くなったおぼこの名前つけられるのは、
ちょっといい気はしないと思うぞ清。



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144回以降の、おしんの全てを覚悟した瞳は
とても印象的でした。
悲しみや怒りや絶望や、全てを超越した
修羅か羅刹のようなあの表情…。


あの表情が、竜三の「またいつか三人で暮らすときも来る」という言葉にふっとゆるんだからこそ、
佐賀脱出以降のおしんの竜三へのあまりの執着にも
納得できるんですよね。
(なんか運命に引き裂かれる男女みたいな空気出してたのは笑ったけど。竜三が佐賀出れば万事解決やないかい)

146回の恒子さんの活躍は、
166回や178回の活躍にも繋がって、
とても胸が熱くなるし、
佐賀編という全体的にどんよりと疲れるエピソードにあって、意外なぐらいさわやかで清々しい終わり方をしたのが意表を突かれましたね。

恒子さんっておしんと竜三夫婦にとって大恩人だよな、なんかあまり触れてないけど、と思いますが、
恒子さんが「礼は言わなくていい」というスタンスのハードボイルドな方だから、これでいいのかな。

佐賀編はとにかく疲れますが、
140回~146回は、役者さんの演技のすごさを見れるという点では、何回も見れるなあと思います。

10位:210回(雄、徴兵)

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太平洋戦争編は、戦争の残酷さを
従来とは異なった視点で描いていると思っています。

それはひとえに、脚本の橋田壽賀子氏による


「戦争中は祖国のために戦えと言っていた人たちが、戦争が終わった後は、戦時中が嘘だったかのように、反戦だ、戦争は悪いものだと声高に叫んでいた」
ことへの怒りで溢れているからです。

それは竜三が戦争に協力した責任を取って自決したことを「立派」だと表現したことからも現れています。

おしんは、戦争中はどちらかというとそのダブルスタンダードで要領よく生きてきた側でした。
子供のころ、俊作あんちゃんから
人と人とが殺し合うことの残酷さを教えられて、
たとえ一人でも戦争に反対してくれと言われていたのに、暮らしが楽になるからと、竜三の軍への協力に反対しなかった。
それなのに、雄が士官学校に入学したいと言ったときは
戦争にいかせるなんてと反対する。

雄からもそのダブルスタンダードは指摘されていて、
最終的に雄は母親のために士官学校は諦めるのだけど、
問題は先送りになっただけだったのです。

竜三が近所の少年を軍に志願させたりするのを心苦しく思いつつも、止めなかったおしんにとって
まだまだ戦争は対岸の火事でした。

雄が出征することになって、ようやく取り返しのつかないことになったと後悔するんだけど、
この流れが、とにかくリアルで、
見ていて辛かったです。

竜三を責める気にはならない、むしろ当時は
国のために責任感のある立派な大人だったんだろうし、
おしんの振る舞いも、母親として間違ったことは何一つしていないと思うのです。
二人とも極端に感情は振りきれていなくて、
優しさはちゃんと内包しているんですよね。

それは雄も同様で、戦争で命を捨てる覚悟はある、
でも、それは自分の大切な家族を守るためで、
母親の悲しむ気持ちもちゃんと理解をしてる。
戦争のない時代に生まれていれば、親不孝はしなくて済んだのに、と嘆く思いもある。

雄が出征すると知ったときのおしんの涙や、
雄のやりきれない表情からは、
名誉の戦死とか、非国民だとか、
いわゆるステレオタイプの戦争ストーリーよりも
よっぽど生々しく、戦争の残酷さをひしひしと感じました。

おしんが戦争に対して
ダブルスタンダードの姿勢でいた罪は、前後
竜三と雄の死という形で罰を受けることになります。

戦争に協力することそのものが罪ではなく、
他人事のときは何もアクションしなかったくせに
いざ当事者になったり、事が終わると、
さも最初から反対していたように、自分は被害者のように振る舞うことがなによりの罪だ、

という考え方は、賛否あるでしょうが、
私には見ていてとても新鮮でしたし、
その通りだなあと思いました。

その罪人の位置に、
主人公であるおしんを置くというのは、
なかなか出来ることではないよなあ。

ううむ、深い。
(でも竜三と雄には生きててほしかった…)



次点
166回(恒子のささやかな復讐)
168~169回(別れと出会い)
45~48回(はる姉ちゃんとの別れ)
106~108回(幸せの絶頂)
73回(おしんブチギレ)
99回(意気投合)
156~157回(おしんと加代)
161回(名口上)
177~178回(新たな人生と佐賀編の終わり)
184回(夫婦)
200回(自転車)
225回(最終回)