The King with Donkey Ears

ドラマ視聴素人の感想置き場。自分のために書いてます。

高校教師 第3話

羽村先生をとにかく傷つける回ですね。

内容的にはややつなぎであることは否めませんが(あくまで本作の他の回と比べて)
この、静かにではありながら、徐々に羽村先生を不安と絶望が蝕んでいく雰囲気がたまりません。



毎回思うことですが、小道具の使い方が
とても素晴らしいと思います。

3話では、婚約者から送られたネクタイ、
これは繭と羽村先生の婚約者が会ったときに買ったものでありますが、それをプレゼントされて
素直に喜ぶ羽村先生が、3話終盤で
そのネクタイをして、彼女の病室にお見舞いしたとき、ちょうど浮気をしている最中を目撃してしまうという展開。


その浮気相手が樋口という男で、
研究室に遊びに来た羽村先生に
「教授はお前の論文を自分のものとして発表した。研究室に戻れると思ってるのか?欠員が出るなんて聞いてない。」
と不安を煽るようなことを言った人間なわけでして。


バスケ部の連中に、体育倉庫に閉じ込められたくだりも、羽村先生の心の中に生まれた漠然とした不安を考えさせる上で大いに効いていました。


そのうえ、繭の父親に呼び出されて
僕らは教師と生徒で、
普通はそんなことにならない、と釈明したら

普通って何だ!?そんなものは、
何も起こさない、起こせない、
ただ長く生きて、死ぬだけの奴の逃避だ



と直球で羽村先生の人となりを
否定されるという。


やけ酒をして家に帰った羽村先生が、
母親からの電話で
「別に変わりないよ。式は、予定通りあげられるよ。……分かってるよ、俺にはもったいないっていうんだろ?分かってるよ…」
と語るのがとても切なく、羽村先生の心を思うと、見ているこちらも胸が締め付けられる思いになりました。
プレゼントされたネクタイをぎゅっと握りしめるところなんか、羽村先生の痛い気持ちが伝わってくるほどです。


繭は繭で、大切にしていた
羽村先生とのポラロイドが
父親に見つかれ没収されます。


突き飛ばされたあとに
繭の足にすがりつく父親の姿は、
見ていてゾッとするというか、
形容しがたい嫌悪感や不快感があり、
この二人の関係性が異様で
どこか禍々しい歪んだものに映りました。


だからこそ、ラストで
「行っちゃやだ、いなくなっちゃ嫌!」
に繋がるわけですが、
傷つき不安に蝕まれながらも、
自分は何も見てない、知らないと言い聞かせ、
繭の元から去っていく羽村先生と、
ああ、先生はあのことを知ったんだ、と悟る繭がとても切なかったです。


二人とも世間の理不尽さに傷つき、
器用に生きられないもどかしさというものに苦しんでいて、そんな二人が出会えば、
急速に惹かれ合うのも必然だったんだなと思います。



心あたたまる場面も数多くありました。

練習試合だと嘘をつかれて、
日曜に他校前に律儀に来る羽村先生と、
独りだけそこに来た繭は、
実質的にデートのような形になるのですが、
これがとても微笑ましかった。


羽村先生の好きなタイプを聞きながら
次々と変顔をしていく繭やそれに噴き出す羽村先生だったり、
ハンカチで口についたソースを拭くと
どっちが大人か分からないね、と羽村先生に言われて
私大人だよ、と繭が返すところとか。


そして、このドラマ全体のテーマとも言うべきセリフもありました。


人間には3つの顔がある。
ひとつは、自分の知る自分。
ふたつ目は、他人が知る自分。
もうひとつは、本当の自分。

本当の自分はどうしたらわかるの?
さぁ…。きっと、自分が
何もかも失った時にわかるのかも。

じゃあ、知らない方が幸せね。


『高校教師』には数多くの
忘れられないセリフがありますが、
この3つの顔についてのセリフも未だに深く記憶に残っています。
最終話まで持ち越す伏線でありますから、
さり気なく序盤で挿し込むところが巧みです。



そして、藤村先生から身体的にも精神的にも
傷つけられ続けている直が、
新庄先生の隣でやっと泣けた場面も
とても良かった。

新庄先生の素朴な優しさが、
痛めつけられすぎて凍ってしまっていた直の心を溶かしたのだと思います。

ラーメンが不味くて泣くわけないのに
何故泣いているのか問いたださない新庄先生にこちらもグッとくるものがありました。


新庄先生の不器用な優しさもまた、
今作の見所の一つですね。

羽村先生と繭の関係性も
すごく好きなのですが、
羽村先生と新庄先生、新庄先生と直の関係性も見ていてほっと心が休まります。



次は4話。
4話のラストは本当に好きです。
4話から話が本格的に動いていくので、とても楽しみです。